ツーレポ信州編(寄稿 今中氏)
プロローグ 1999年 夏 僕はバイク仲間である伊藤さんと夏のツーリングプランを立てていた。「信州湯けむりツーリング」である。 しかし、ツーリングを控えた約1ヶ月前になって伊藤さんは不運にも事故にあい、ツーリングは絶望的となった。腕にギブスをはめた伊藤さんは、「せっかく宿の予約もとれて楽しみにしていたんやさかい、バイクじゃなくてもいいので行く」と言い、彼女を連れて、電車とバスを乗り継いで標高1800mにある信州の温泉宿を目指したのでした。 伊藤さんの彼女マリちゃんも僕に気を使ってか、友達である天使を誘って来てくれた。 「標高1800mの恋」 第一章(はじまりはいつも雨) 標高1800m、日本アルプスの山中に天使が舞い降りるという情報をキャッチし、僕は一路東へとバイクを走らせた。途中道路に飛び出してきた野生のサルをひきそうになったり、カバンに詰めたスナック菓子が気圧の影響で今にも弾けんばかりにパンパンに膨れ上がったりなど、いくつもの波乱を乗り越えながら僕は降り続ける雨の中をひたすら走り続けた。 宿に着いたときの僕の姿形は野人と化していた。この姿ではみんなに会えないと思い、宿の人に頼み込んで先に風呂に入れてもらう事にした。露天風呂に浸かりながら、僕は天使に会った時の最初のあいさつを考え続けた。ここはクールに 「ウッス!」 とキメテみようか?それともアウトローをキメ込んで無視するのがいいかも?いやいや、やっぱりここはおもしろい人と思わせる為にズボンを脱いでいって「愛の宅急便到着しました」なんてのはどうだろう? などなど、さんざん考えている時、2階の部屋の窓が開いて伊藤さんが顔を覗かせ、こちらが○○ちゃんと言って天使がひょっこり顔を出し笑顔で手を振ってくれていた。(それが天使との出逢いだった。)僕はだらしなくニヤけた顔で手を振り返すのが精一杯だった。まさに第一印象「雨もしたたるダメ男」である。 第二章(絶景よりもツーショット) 2日目の朝、空は青空を取り戻していたが、どうも雲行きがあやしい。山の天気は変わりやすいと言うが、天使が悪魔に変わらなければいいのだが… 案の定、宿を出る頃には雨が降り始めていた。バスの出発時間までの間、近くにあるハイキングコースを散策することにした。 宿で2本の傘を借り、男女ペアで相合い傘をすることになった。僕と天使の即席カップル誕生である。 伊藤カップルに攻められ、天使は僕と腕を組まされるハメになり少々迷惑そうであったが、僕はこの旅初めて降りしきる雨に感謝した。 絶景の滝をバックに写真を撮る事になった時、僕はカメラマンの伊藤さんに指示を出す。 「滝はどうでもいいから2人をアップで撮って!」 天使が一言 「ちゃんと滝も入れて!」 僕、苦笑い。 第三章(また会う日まで) 刻一刻と出発の時間が迫ってくる。この旅の前日に聞かされた伊藤さんの忠告が頭をよぎる。 「その日は目一杯楽しんでもらってもかまいませんが、決して相手の連絡先などは聞いてはいけませんよ〜」(もぐろ福造風に) それでも僕は我慢しきれずに後ろを歩く伊藤さんカップルに向かって、大声でたずねた。 「天使の連絡先、聞いてもいいのかなぁ〜」 「そんなん知らんわ〜」 との返事が返ってくる。とは言ったものの内気な僕はなかなか天使に連絡先を聞くことができない。 昼食時、妙にそわそわと落ちつかない僕の態度に気付いた伊藤さんの彼女マリちゃんが助け船を出してくれた。 「まぁ、これも何かの縁やし、お互い電話番号の交換をしましょう!」 (マリちゃん!最高ー!) 天使は断りきれず僕に携帯の番号を教えてくれた。 お別れの時がきた僕は出来るだけ、さびしそ〜な顔を作って天使を見送ったのだが、あまり効果がなかったのが残念である。 おわり エピローグ 後日、伊藤さんから聞いた話によると、決して悪い印象ではなかったらしい。ただ、天使はとてつもなく忙しい人なので、あらゆる意味で一筋縄ではいかないだろうと言われた。 でも僕には聞こえる すぐそこまで春の足音が近づいている。 |
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