ツーレポ金沢編(寄稿 今中氏)

 どうにかバイクに乗れる身体に戻った。となると我慢できなくなるのがツーリングである。早速僕はロングツーリングの計画を立てていた。季節は秋である。食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋、ツーリングの秋・・・。
  
 今回は久々に食を目的としたツーリングを計画した。僕が思いつく秋に美味しいものと言えば「サンマ」である。そこで今回は今までツーリングでは行ったことがなかった金沢へと向かうことにした。金沢には僕の大学時代の友人のTちゃん(♀)がいるので向こうで彼女に接待してもらおうと自分勝手な計画を立てたのだった。

 さて、いざツーリングの予定は立てたものの、僕の足はまだ完全には完治していないため旅先で何かアクシデントがあった場合の時を考えると不安になるのだった。そこで、とても頼りない男ではあるが、一人で行くよりはマシかもしれないと思い、あの男を誘ったのであった。

「なぁ田中さん、金沢にツーリングに行かへん?」


10月12日(土) 朝7:30分 

 とてもめずらしく時間通りに待ち合わせ場所の西院駅に田中さんは現れた。僕達は京都南インターから名神高速に乗り、一路東へとバイクを走らせた。今回、行きのルートは少し遠回りになるが岐阜経由で金沢へ向かうということにしていた。

 なぜさざわざ岐阜を通って行くかというと、僕にはどうしても一度訪れたいと思っていた場所があったのだ。それは世界遺産にも指定されている合掌造りの建物で有名な白川郷である。

 ちょっとオッサン臭いと言われるかもしれないが、僕は日本の情緒溢れる村や町を訪れるのが好きなのだ。逆に田中さんはそういった所には何の興味も示さないタイプである。どちらかというと彼は村よりも町、町よりも街、街の中でも“ネオン街”に大変興味を示すタイプである。(笑)

「出だしからいきなりコレかい!ごっつう気分悪いわ!」

休憩の為に寄った高速のサービスエリアでの田中さんの一言である。

僕達二人の休憩している所へ一人の中年の男性が歩み寄ってきて

「私、ちょっと気が狂っていて、車を駐車しようとして歩道にぶつけたんですよ。ちょっと見てもらえませんか?」

と話しかけてきた。かなりヤバそうな男性である。

すぐさま僕はそそくさとその場を離れたのであるが、悲しいかな田中さんは逃れるタイミングを失ってしまい、そのあぶない男性に旅の意欲を吸い取られ続けていたのだ。

さすがの田中さんもその男性の口から

「私、最近 精神病院から出て来たばかりでして…」

といったような話を聞いた瞬間、その場を逃げ出して来たという。

 その後も僕達はその男性に見つからないように少し離れた場所から観察していたのだが、彼は次々と新しい獲物を見つけては生きる意欲を吸い取り続けていたのだった。

 気分を取り直して再出発する。名神高速から中央北陸道に乗り換え郡上八幡を目指す。中央北陸道では事故渋滞が延々と続き、路肩走行を余儀なくされた。郡上八幡ICで高速を下り、白川街道を北上する。

 白川街道では「風になびくススキやコスモスに目を奪われる。」僕であったが、田中さんにすれば「ススキノでコスプレに目を奪われる。」方が良かったに違いない。

 道の駅“白川”で昼食後、少し寄り道をして“落差80mもある滝”を見に行こうということになり、県道の山道へと入って行ったのだった。するとその道は進むにつれてとんでもない道へと変わっていくのであった。一応舗装はされているのだが、所々崩れていたり、大きな水たまりがあったりなど最悪な道であった。

 二人とも半泣き状態での走行である。まさに滝を見る前に泣きを見るハメになった二人であった。ようやく滝の見える場所へと到着したのであるが、滝は目の前にあるのではなく向かいの山間に見えるのであった。距離は約800メートル先である。つまり実際には落差80メートルある雄大な滝かもしれないが、僕達の見れる場所からでは落差80センチしかない愉快な滝でしかなかったのが残念である…ここまでの所要時間30分に対し実際に滝を鑑賞した時間はわずか5分ほどであった…

 来た道を引き返し、一応今回のメインである白川郷へと向かう。白川郷へ着いたのは午後の3時半であった。僕の予定よりも1時間遅い到着である。合掌造りの喫茶店で休憩しながら二人でこの先のルートを考える。

 今回の旅の宿は金沢市のビジネスホテルを予定しているのだが、まだ予約が取れているわけではなかった。僕は旅の数日前にインターネットで金沢市内のビジネスホテルの予約状況を調べていたのだが、この日は行楽シーズンの三連休でどこも満室だったのだ。その旨を田中さんに伝えたところ、

「インターネットはメジャーなとこしか出てないやろ」

と言われていたのだ。

 結局僕もその言葉を鵜呑みにして当日なんとかなるやろと思っていたのだ。つまり少しでも早い時間に金沢市に着いて宿探しをしなければ段ボール族の仲間入りをしなければならないことになる。

「俺はこの山道のルートで金沢に抜けようと思うんやけど、田中さんはどう思う?」

「またさっきみたいに荒れた道やないやろな! 遠回りになるけどこっちの国道から回って行った方がええやろ」

「そんな遠回りしたら金沢に着くのが何時になるかわからんで。 大丈夫やってさっきみたいにひどい道やないと思うわ。」


結局、ナビゲーター今中の意見が通り、山道を行く事になったのであった。

 一応僕は金沢の頼れる友人Tちゃんに電話を入れ、

「Tちゃん、ちょっと到着時間が遅れそうやねん。それでまだホテルの予約が取れてへんさかい、悪いんやけど、どっか探しといてくれへんやろか? 」

と保険をかけておいたのだ。

 白川郷を出発してしばらくしてから県道の山道へと入っていった。すると突然僕達の行き道を阻むかのように一枚の立て看板が現れた。看板には

「土砂崩れの為、当分の間は通行止め」

と書かれていた。僕は

「こんな立て看板ごときでこの俺を止められるか!」

の勢いで看板を無視してその道へと入っていったのだ。田中さんは

「ほんまに大丈夫か〜」

 といったような表情で僕の後についてきた。するとその道は僕達の想像をはるかに越えた悪路であったのだ。道路一面に小石&落葉が広がっていて、しかもご丁寧に道路脇の至る所から山水が流れ出ていてビシャビシャの状態であったのだ。もはやオンロードバイクで走れるような道ではなかった…

あのクールで有名な田中さんが絶叫するぐらいすごかったのだ。さすがの僕も

「やべ〜! こりゃシャレにならんなぁ〜 引き返した方がええやろか?」

と考えた。

 でも待てよ、コケてまた足の骨が折れたら、もう一度白衣の天使に会えるし、いいかも。エヘッ。そう希望を抱いた僕は

「このまま前進〜!!」

と叫びながらその道を突き進むのであった。この時の心情を短歌にすればこんな感じである。

「田中も叫ぶ秋の山道  今中ニヤリッ 田中ヒヤリッ」(字足らず)

 激走すること30分、前方から一台の軽自動車がやってきて、運転しているおじさんが僕達に向かって指で×マークを出している。バイクを止め、おじさんに話しを聞くとこの先5分程走った所で車は通れないようにしてあると言うのだ。

「ウッソ〜?! マジで〜?!」


 僕も田中さんも半泣き状態であった…。今までの苦労は一体なんだったんだ…。またあの過酷な道を帰らなければならないのか…。

 おじさんの言う通り5分ほど走ると見事に通行止めになっていた。車止めの鉄柱だけならまだしも、ご丁寧に道幅一杯に人間の力では運べないような巨大な石が3っつも置かれていた。

「何人たりとも絶対通しません!」

 という工事関係者の強い意志が伝わってくる。しかしもはや僕達には今来た道を引き返すほどの気力は残っていなかった。

 なんとか一ヶ所だけバイク一台が通れるスペースを見つけた僕達は二人で協力しながらバイクを通すことした。泥でぬかるんだ水たまりにはまりながら慎重にバイクを進める。少しでもハンドル操作を誤ったら道路脇の川へ転落である。

 テレビCMのように「ふぁいと〜!」「いっぱ〜つ!!」などと息の合ったコンビプレーは当然見られなかったものの、どうにか二台のバイクはその「工事関係者の気迫」を打ち破ったのだった。とりあえず僕達は征服記念に証拠写真をデジカメに納めて、その場を去ったのであった。

 当初はかなり時間に余裕のあるツーリングを予定していたはずであったのだが、いろいろなハプニングのおかげでかなりの時間を費やしてしまい、陽は少しづつ西の空へ傾きはじめ、辺りは徐々に暗くなりつつあった。

 こんな外灯もない山道で真っ暗になってしまってはヤバイと思った僕達は次第にペースを上げて走り出していたのだった。辺りが暗くなってきているので路面があまり見えていなかったその時である。突然路面の色が変わったと思った瞬間

「ひょええええ みっ道がががががががガフッ」

 そう、いきなりアスファルトの道からダートへと変わっていたのであった。ゆるい下り坂での突然のダートである。僕達の顔から血の気が引いたのは言うまでもない。ヘタにブレーキをかけると間違いなく転倒につながる状況である。

道路脇の標識には

「これより先1kmダート」

と書かれている。僕は

「もっと早よ言わんかい!俺らを殺す気かい!! ボボボボボボケケケケケケケガフッ」

 と舌を噛みながら石川県の夜空に向かって叫び続けたのであった。なんとか転倒をまぬがれ、ダートを制覇した僕らは抱き合って無事を喜んだ、なんてことはあるわけない。

 夕方6時半頃、なんとか目的地の金沢市へと到着した。携帯を見るとTちゃんからメールが届いていて、「どこも一杯やったけど、なんとか駅前のホテルにシングルの部屋を2つ取りました。」と入っていた。なんとも頼れるTちゃんである。おかげで僕達は駅前で段ボールにくるまずにすんだのだ。

 その後Tちゃんがお友達の「オンナ」と一緒に車でホテルまで迎えに来てくれて、僕のリクエスト通り旬の「サンマ」を出してくれる店に連れていってくれたのだ、こうして僕達は優雅な金沢の夜を大いに満喫したのであった。

                                おわり



あとがき

 僕には友人が少ない。だけどその数少ない友人達はなぜかみんな良いヤツばかりである。この物語に登場するTちゃんもそんな数少ない大切な友人の一人である。本当に今回の旅ではTちゃんに世話になりっぱなしだった。
 物語には書かれていないが次の日の朝も彼女はホテルまで迎えに来てくれて地元で有名なソバ屋さんまで僕達を連れていってくれてご馳走してくれたのだ。今回僕が自分勝手に計画した“金沢で接待してもらう”が現実のものとなったのは面倒見の良いTちゃんのおかげである。

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