ツーレポ2000年九州編(寄稿 今中氏)

(1日目)

「もしもし伊藤さん? 無事にフェリーに乗れそう?」


 
僕は神戸に向かうフェリーの中から伊藤さんに電話をかけた。僕が大阪の南港からフェリーに乗り、伊藤さんは神戸港から乗船してくる予定である。今年一発目のロングツーリング。「九州湯けむり天使を探せ」の旅の幕明けである。もちろんパートナーは「若干ダメ人間」の伊藤さんだ。

受話器の向こうから、ややキレ気味の伊藤さんが

「アホー!! カッパがないから濡れネズミじゃ!! ボケッ!!」

と叫ぶ。

 そう、先日伊藤さんの家でツーリングの打ち合わせから帰る時、雨が降っていたので、僕は彼のカッパを借りて帰ったのだ。そのため彼は実家の西宮から神戸まで、カッパも着ずに雨の中を激走せざるを得なかったらしい。スマン。

「ところで伊藤さん、もう飯は喰ったん?」

「ああ、仕事が終わってから一旦家に帰ったし、その時喰ってきたわ。 でも、フェリーのレストランに行くんやったら、一緒に行こう。待ってて!」


 僕は仕事が終わったその足で飯も喰わずにフェリーに乗り込んだので、かなり空腹であったのだが、

「わかった。伊藤さんが乗船してくるまで、待ってるわ」

と応え寝台で伊藤さんが乗り込んでくるのを待った。

 しばらくして、船内アナウンスが響きわたった。

「ピンポンパンポ〜ン ご乗船のお客様にお知らせ致します。ただいまのお時間を持ちまして、レストランを閉店させていただきます。ご利用ありがとうございました。ピンポンパンポ〜ン」

今中涙


(九州1日目)

 
午前10時フェリーは別府港に入港した。今回のツーリングには大きく分けて2つの目的があった。1つは「混浴露天風呂、今中&伊藤ウハウハ天国」と、もう1つは「たらふく九州郷土料理店の看板娘メロメロ天国」であった。(どちらも同じ目的のような…)

 そこでまず第一の目的をはたすべく、さほど有名ではない筋湯温泉へと向かった。この日の為に僕はインターネットを駆使して、ありとあらゆる九州の「混浴露天風呂」に関する情報を入手していた。

 ここで注意してほしいのは、湯布院や黒川温泉などのメジャーな温泉地を選ばない事である。そういった温泉地を訪れる人々は年齢層が幅広く、たとえ混浴であっても、

「そこの若いお兄さんご一緒させてもらってもよろしいですかいのぉ」

などと元女性の方々に囲まれてしまう確率がヒジョ〜に高いのである。そこで話を合わせようとして70過ぎのばーちゃんに

「お母さん!まだまだ40代に見えますよ!!」

などと言うものなら、

「いやだわ〜このお兄さんったら!!パチンッ! フォゴ」
「はぁらいやはわ、ひぃれはがとれひゃった。(あらいやだわ、入れ歯が取れちゃった。)」


などと地獄絵図を見るハメになる。そういった事をふまえて、あえて筋湯温泉を選んだのである。

 しかし残念ながら僕の思惑は見事に外れてしまった。真っ昼間のさびれた温泉街の露天風呂、終始僕と伊藤さんのプライベートバスであった。

 僕達は鼻の下を伸ばしながら、のぼせるのを必死で我慢して湯けむり天使の訪問を待ち続けていたのだが、結局現れたのは、僕達と同じ目的をもった若い兄ちゃんが一人来ただけだった。しかも兄ちゃんは風呂に入っているのが、野郎2人だけなのを確認すると、

「チッ」

と舌打ちをして風呂も入らず、そそくさと帰ってしまった。

「なんかむかつく〜!」

 予定時間を大幅にオーバーしていたため、次の目的地へと急いだ。牧草地帯の中を真っ直ぐに伸びる“やまなみハイウェイ”を阿蘇に向かって南下する。まさに気分はイージーライダー!しかしバックミュージックは「カントリーロード(伊藤バージョン)」無線の調子がいまいちだったのがさいわいして、彼の歌声で気分が滅入ることは避けられた。

 阿蘇の山頂では何十台ものバイクが集結していた。たいがい連中は全身黒ずくめで、アメリカンタイプのバイクに跨り、いかにも

「俺達ギンギンにとがってるぜ!! 触るとケガするぜ!! ヴォンヴォン!!」

的な輩ばかりだった。

 僕や伊藤さんは自称「ジェントルライダー」を通しているのだが、彼等の様な連中のおかげで、僕達まで、一般の人々にけむたがられるのがつらいところである。僕は今風の言葉で、抗議した。

「テメェ〜ら ちょ〜ウザイ!! ってゆっか〜理解不能!」

もちろん山の方に向かって叫んだよ(悲)

山頂では、阿蘇の名物として「プリンソフト」と呼ばれるものが売られていた。プリン好きで有名な僕がこの“スペシャルデザート”を見逃すはずがない。

「おっちゃん!! プリンソフトおくれ!!」

「あいよ!」


 
威勢のいい返事と共におっちゃんは陳列ケースからその辺のコンビニに売っているプリンを取り、フタを空けソフトクリームを乗せて、僕に手渡した。

「ほい! 450円!」

 え?! たっ確かにまぎれもなく「プリンソフト」なのだが、なんかこーいまいち納得がいかないじょーきょーである。できればソフトクリームはプリンのあの絶妙な台形の頂点のキャラメルの部分にウニニッ〜と乗せてほしかった。

「ってゆっか〜! そもそもなんで市販のプリンにソフトを乗せただけのものが450円もするんだ!バカヤロー!!」

もちろん山に向かって叫んださ。(悲×2)

 問題の味はというと、う〜ん?ソフトクリームがとっても濃厚であった。つまり牛乳嫌いの僕にとっては大変ヘビーな一品だった。結局ソフトクリームは伊藤さんに食べてもらって、僕は「プリンソフト」のソフト抜きを食した。

 夕方、阿蘇山の麓にある温泉での出来事である。僕はふと気づいたことがあったので、伊藤さんに尋ねた。

「なぁ伊藤さん、ちょっと肥ったんとちゃう?」

「そうか〜? 別に変わってないとおもうけどなぁ〜。」


風呂から上がり、

「だいたいそんなことあるわけないないやん! 月1回ぐらいテニスに行って体動かしてるし、絶対気のせい!気のせい! はっはっはっは!」

と笑いながら彼は体重計に乗った。

「なんじゃこりゃ〜!!」

彼の絶叫が響きわたる。

 当分の間、減量生活が始まるそうである。しかし、実際に1番ショックを受けたのは僕の方ではないだろうか。伊藤さんの異変に彼女であるマリちゃんが気づくならまだしも、僕が気づくなんて… 僕と伊藤さんの関係って一体?!


(九州2日目)

 
バイク乗りの朝は早い。早朝6時ごろから次々にテントを畳んで出発していくライダー達。僕達も昨夜阿蘇山頂で無理矢理買わされた「骨付きソーセージ」で軽く朝食をすまし、出発した。

 地元のスタンドで今回初の天使と出逢う。若干化粧が濃かったが、僕は大変気に入った。もしも僕が

「僕達関西から来たダメ芸人です! なんでやねん!!」

 
などとちょっと小粋に一発かませるようなキャラなら、今頃彼女の一人でもいそうなものだが、悲しいかな小心者の僕は

「あっあのぉ〜ちっ近くにコンビニありますかぁ〜」

などとどうでもいいようなしゃべりしかできなかった為、メロメロ天国へと発展することはなかった。

 昼頃、「高千穂峡」に到着。バスツアーの客にまじり、ガイドさんの解説に耳を傾ける。

 昼食には「流しそうめん」を注文した。「流しそうめんビギナー」である僕達は最初スルーを繰り返していたが、慣れてくると、今度は

「もっと早く!! ちゃっちゃと流してこんかい!!」

的な視線をひさし越しの「そうめん流し係」に向ける。それでも流れてこないので、他に注文した川魚の塩焼きに箸を付けている時に「ざんねんでした〜」と目の前をそうめんが流れて行くのである。なんだか見事向こうの戦略にはめられた気がする。

 昼食を終え、僕達は走り出す。だいたい1日平均300kmぐらい走ることを予定し、計画を立てていたが、昨日はウハウハ天国に時間を取られて、150kmぐらいしか走っていなかったので、今日は気合いを入れて走ることにした。

 最近かなり走りが上達した伊藤さん。以前は1つコーナーを抜けるたびにバックミラーで伊藤さんの安否を確認していたが、今では少々飛ばしても、しっかりついてきている。

「伊藤さん!だいぶ上達したな!」

「そやろ! こうちゃんの“あいーん”をマネしてたら上手く曲がれるようになってきたわ。」


 “あいーん”とは顔をコーナーの出口に向ける一般的なライディングである。僕のフォームは少々大げさな為、志村ケンの“あいーん”に見えるらしい。

 夕方、なんとかキャンプ場に到着した。早々にテントを張り終え、露天風呂&夕食の買い出しに出かけた。

 えびの高原露天風呂は最悪なことに女湯に続く道から男湯がおっぴろげ状態だった。まさに「仇討ちの湯!」。それほど立派なモノを持ち合わせていない僕達にはとても肩身の狭い温泉だった。

 しかも伊藤さんは脱衣所に戻る道すがら、バッタリと女性と目が合ったそうである。彼女も「ここで目をそらしては私の負けよ! がんばれ私!」状態で一歩も退かなかった為、2人の間に数秒間の時間が流れたそうである。

 結局、両者引き分けと言いたいところであるが、服を着ている彼女に対して、伊藤さんは全裸で立ち向かったのだから彼女の完全勝利であろう。

 キャンプ場の周囲にはスーパーがなく、しかたがないのでみやげ物屋に寄った。しかしみやげ物屋では食材となるものがほとんどなく、レトルトの「牛タンカレー」が唯一の食材であった。とりあえず、「牛タンカレー」を購入したもののこれではあまりにも「ああ無情!」と思い、往復で1時間はかかるであろう「小林」まで買い出しに行くことにした。そう、あの鯉料理の小林である。

 小林のガソリンスタンドの兄ちゃんにスーパーの場所を訪ねるが、

「このぉ〜道をぉ〜右にまがってぇ〜いや 左だったかな? それからぁ〜1つ目のぉ〜あれ? 3つ目かも?の信号をぉ〜‥‥‥」

などといまいち要領が得なかった。それでも伊藤さんは兄ちゃんのしゃべりが気に入ったのか、スーパーに着いてからでも、

「やっぱりぃ〜宮崎牛のぉ〜ステーキがぁ〜いや? しゃぶしゃぶもいいかなぁ〜でもダイエットしないといけないしぃ〜」

などとやっていた。

 宮崎牛のステーキとホタテの貝柱というなんともリッチな夕食を終えた後、僕達は昨日のキャンプ場では周りが静かすぎて作れなかったポップコーンを作ることにした。(あのシャカシャカ振るやつ)。しかし、丸一日バックの底に押し込まれていた為、底のアルミ部分がかなり変形していた。それでもまぁ問題ないだろうと思い火にかけてシャカシャカと振るのだが、かなり底のヘコミがきつい為、中のコーンがうまく転がらない。それでも根気よく振り続けていると「パンッパンッ!!」と心地よい音が鳴り始めたがほんの数分程で音が止んだ…

「なんとも香ばしいというか、少々焦げ臭いというか、間違いなく焦げてる!!」

という臭いがただよっていた。

 結局出来上がったのは「ポップコーン」ではなく「バブルガムブラザーズの KORN」だった。(さぶ〜)

 僕がインターネットからキャッチした情報によると、女性もやはり混浴露天風呂にキョーミがあるらしい。しかしやはり少々恥ずかしいという思いがあるため、大半の女性は人の居ない深夜や早朝に入るらしい。そこで僕達は早朝に狙いをさだめ、恒例「夜のY談」もそこそこにして早寝を決め込んだ。


(九州3日目)

早朝5時半 携帯の目覚ましが襲いかかる。普段なら2人ともなかなか起きず、

「う〜ん、長い針が6を指したらおきるからぁ…グゥ〜」

なのだが、今朝の2人はやけにシャキシャキしている。

「俺がシュラフ畳んでいくから、伊藤さんはテント片づけて!!」

「ラジャー!!」


すでに2人の頭の中は、「混欲」に支配されていた。

 6時ジャスト出発に成功した。目指す温泉は距離からして20〜30分程で着く予定である。途中、バスの運転手に場所を確認すると約4kmほど山を入った所にあるという。僕達は荒れた山道をものともせず突き進むのだが、それらしいものがぜんぜん見あたらない。

 とうとうその山道はバイクではとてもじゃないが進めない道へと化していた。とりあえず、バイクを降りて歩いてみたがまともに歩くことすらできない道だ。結局僕達は泣く泣く来た道を引き返した。時間はすでに7時を回ろうとしていた。焦りと不安が僕達に降りかかる。このままでは「早朝ウハウハ天国」の夢が…

 かなり長い道のりを引き返して来た所で一台の車が山道を上がってきた。僕達は車を呼び止めると、2人の中年のおっさんが窓から顔を出した。

「どげんしたんちゃ?」

「すみません。○○温泉に行きたいのですけど、場所ご存知ないですか?」


と尋ねると、

「わしらもそこに行く途中やけん、初めてやけどたぶん道は合っとると思うき、一緒にいくばい。」

僕等は

「たとえ命にかえてもついていくけんね!覚悟するばい!」

と誓った。


 ここで僕達が目指している温泉を紹介しよう。その温泉は川のいたるところから温泉が湧き出ていて、川そのものが湯船になっているというかなりめずらしい温泉なのだ。つまりただの川なので男女の仕切りはおろか、脱衣所など存在しない実に野生味あふれる温泉である。ガイドブックにはすっぽんぽんの姉ーちゃんが片乳を出して入っているのだから、男性であればたとえ命にかえても行こうとする温泉であろう。

 おっさんの車の後をつけて走ること5分 夢にまで見た幻の温泉に到着した。すでに先客がいるらしく、何台かの車が停まっていた。しかも川の方からは黄色い声も聞こえる。我ら男性4人はマッハのスピードでサンダルにはきかえ川へと降りていった。しかし我々はそこで思いもよらぬ光景を目にすることとなる!!(ガチンコのナレーション風に)

 なんと先客のほとんどが家族連れで、しかも女性は皆水着を着用していたのだ!!我ら4人はがっくりと肩をおとした。しかもすっぽんぽんの男性の背中には見事な“ジャパニーズアート”がほどこされているではないか!彼の背中がこう語る、

「ワシら普通の温泉では入浴断られるけんね!こうゆう温泉に来るしかなかろうも!つべこべゆーとったら殺すばい!」

 
一緒に来た中年のおっさんが記念にと写真を撮ってくれた。僕はお礼を言って名刺を渡してきたのだが、あれから1ヶ月が過ぎようとしている今、まだ写真は送られてこない。(お〜い!おっさん!!写真はまだか〜!)

 結局、僕達はウハウハな思い出を得れず、その温泉を後にした。

 1時間程バイクを走らせたところで朝食兼昼食をとるため○○大社に寄った。この辺りでは田舎蕎麦が名物らしい。至るところに蕎麦屋の看板が掲げられている。僕等は一番外観が綺麗なところに入った。(以外と店がまえがみすぼらしい所の方が美味しいことが多いのだが、僕等はそれほどチャレンジャーではない。)

 次に目指すは“日南海岸”である。“日南海岸”は阿蘇に並ぶほど有名な九州のツーリングスポットである。しかし海岸線に出る手前でポツリポツリと小雨が降りだした。とりあえず様子をみようと休憩がてらコンビニに寄った。が、雨足は次第に強まりはじめたので、僕は屋根のある駐車場へとバイクを移動させた。

 しかし、その駐車場の屋根は網目の鉄板で出来ているために雨の当たらない所は非常に狭いスペースだけだった。僕は真っ先にその場所にバイクを止めた。判断の遅れた伊藤さんは少しでも濡れない
所をと探しているうちに濡れネズミになられていた。

「人がビショビショに濡れてんのに!うまそうにタバコふかすな!」

今回はよく雨に濡れる伊藤さんである。

「それはそうと伊藤さん、電話で天気予報聞いてみて!」

「はいよ! ピッポッパ」「え〜と12時27分やって!」

「時報聞いてどないすんねん!」


僕は叫ぶ。

「どないして聞いたらええの?」

「アホやなぁ〜 伊藤さんは以外と使えへんなぁ〜 最初に市外局番打つねん。」

「そっかそっか! ピッポッパ」「え〜と…兵庫県は曇りのち晴れやって!」

「もうええわ!!」


 かなり強い雨だったが、30分ほどで天気は回復した。気分をとりなおしてバイクを走らせること5分、なんとその辺りはぜんぜん雨が降った形跡がなかった。つまり僕がトイレで爆弾の投下行為をしていなければ伊藤さんは濡れネズミになることはなかったのだ。彼は旅が終わるまで終始そのことで僕を恨み続けた。

 日南海岸を鹿児島に向かって南下中、ちょっとしたテーマパークに寄った。そのテーマパークは実物大のモアイ像が何体(何首?)も立ち並んでいた。しかもモアイ像の前では青い瞳をした異人さんが悩殺衣裳でフラダンスを踊っていた。僕はひじょ〜に興味があったのだが、どうも伊藤さんはそれほど異人さんにはそそられるものがないらしく、あまり観賞する時間を頂けなかった。

 そのモアイ園では園内をゴーカート(2人乗り)に乗って回る事ができた。1時間千円也(安いかも?)。しかし所詮テーマパークのゴーカートである、思いっきりアクセルを踏み込んでも平地ではせいぜい15キロほどのスピードしか出なかった。

皆さんの周りにはいないだろうか? 普段はおとなしい人なのだが、一旦車のハンドルを握ると

「オラ!オラ!オラ! チンタラ走ってんじゃねぇーよ!! 道ゆずらんかい!べらぼ〜め!!」

 
などと変身する人を。まさに伊藤さんもそういった部類の人である。平地ではスピードが出ないカートだが、やはり坂道ではそこそこスピードが出るものだから、まさに伊藤さんは水を得た魚のごとくここぞとばかりノーブレーキで坂道を駆け下りる。

 目の前にはきついヘアピンカーブが迫る。彼は力一杯ブレーキを踏み込んだ! が、カートは止まらない、しかもタイヤはロックしてしまってキィ〜と悲鳴を上げている。(ちなみに僕も悲鳴を上げている。)

 僕の脳裏に明日の三面記事の見出しがよぎる。

「哀れ関西人! カート横転! 人生終点!」

 あわや横転&側壁に激突寸前で僕等の乗るカートはまるでアニメのルパン三世のように片輪走行したのち無事生還することができた。

「びびった? びびった? こけると思った? はっはっは!!」

と伊藤さんは強気の発言をしていたが、彼のハンドルを握る手が小刻みに震えていたのを僕ははっきりと覚えている。

 結局フラダンスの姉ちゃんとは何もないまま、僕達はそのモアイ園を後にし、九州の南端にある半島を目指した。この半島には野生の馬や猿が生息しているため、岬の灯台に続く道は彼等(?)を保護するという名目で有料化されていた。

 たしかにそこらじゅうに馬や猿がうろうろしていた。しかも彼等(?)は人間慣れしているのでタチが悪い。車から餌を与えているところへ猛ダッシュするものだから、バイクで走る僕の前を平気で横切るのだ。

 僕は彼等(?)に忠告してやった。

「やい! 猿! 僕は運転テクニックが優れているからいいものを、ヘタッピの伊藤さんの前を横切ったりしたら確実にミンチになるぞ!」

 
岬の灯台からの帰り道、見通しの悪い左コーナーを曲がったその時である、目の前に大きな黒い影が立ちふさがっているではないか!僕はとっさにハンドルを大きく右に切りなんとか避けることができた。バックミラーで確認するとなんとそこには4頭もの馬が左車線一杯に広がって雑談をしてやがった。

 僕は後ろを走る伊藤さんに祈った。

「頼む! 伊藤さんうまく避けてくれ!! こっちは鉄馬だけど、向こうは4頭だ!  勝ち目はないぞ!!」

 僕の脳裏に明日の三面記事の見出しがよぎる。

「哀れ兵庫県の人! 鉄馬で本物に突っ込み撃沈!」

 そんなことも知らずに気分上々で伊藤さんはコーナーを立ち上がってきた、彼は目の前に現れた突然の事態にさぞ驚いたことだろう。しかし伊藤さんは冷静な判断でハンドルを右に切り紙一重であったがなんとか馬を回避した。一年前の伊藤さんのテクニックなら間違いなく突っ込んでいただろう。僕はバックミラー越しに彼のライダーとしてひとまわり大きく成長した姿を温かく見守っていた。


 この旅の前日、伊藤さんは会社から「大入袋」を頂いたらしく、中身には諭吉さんが一名入っていたという。伊藤さんはそのお金で日頃大変お世話になっている僕にご馳走すると言ってくれた。

 海沿いにいるのだから勿論海鮮料理だろうということになって、僕達は店を求め海岸線を走った。すると前方になんともゴージャスなホテルが建っているではないか。僕達は迷わずそのホテルの駐車場にバイクを乗り入れた。しかしホテル側としては荷物満載の汚いバイク2台をあまり目立つ所に置いてほしくないのだろう、僕達のバイクはあまり人目につかない所に置かされた。

 たしかに僕達は多少身なりが薄汚れていたし、多少お金を持ってなさそうに見えたかもしれない、そんでもって多少放浪者に間違われることもないこともない、そりゃあ多少ゴージャスなホテルにはそぐわない気がしなくもないこともないようなこともない。がっあんまりではないか?

 しかもホテルのレストランの案内係は外が曇り空にもかかわらず

「テラスが気持ち良いですよ!」

などと言い誰もいないテラスに追い出そうとする。さすがの伊藤さんもカチーンときたらしく、

「座敷あかんのか!座敷!俺ら座敷がええねん!」

と叫んだ。案内係は少々びびりながら

「どっどうぞ、どうぞ」

と応えた。

 僕達の前に料理が運ばれて来たとき、周りの客はざわめきはじめた。そりゃそうだろう、テーブルには僕達にはあまりにも不釣り合いの料理が並べられていたからだ。ご飯を覆い隠すようなウニ丼と鉄火丼、とても2人では食べきれないような立派な刺身の盛り合わせ、磯の香り漂う海鮮汁。周りの客達には僕達が当たりの宝くじを拾ったヒッピーに見えていたに違いない。

 周りの視線がこう語る。

「マサヒロ、今度はいくら当たったんだい?」

夕食を終え、僕達は最後の力を振り絞って夕闇の中をフェリー乗り場へとバイクを走らせた。

「アクセル全開! 今中限界! 伊藤崩壊!!」

                  おわり


あとがき

 先日一通の手紙が送られてきた。封筒の中には幻の温泉での写真が入っていた。あの時のおっさんが送ってきてくれたのだ。手紙によると、あの温泉は僕等が訪れてから数日後、硫化水素ガス濃度が高くなったため、立入禁止になったという。僕達はとてもラッキーだったようだ。
 ちなみにおっさんにお礼の手紙を送ったら、今度はメールが送られてきて、今では51歳のおっさんとメル友として連絡を取り合っている。今回の旅では天使との出逢いはなかったが、かなり年の離れたメル友ができたことは大きな収穫ではないだろうか。

 このレポートが新しいライダー誕生の起爆剤になれば大変うれしいです。さああなたも! 僕達と一緒に天使探しの旅に出かけましょう。

                            2001.6.8    いまなか

戻る

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送