ツーレポ2000年九州編(寄稿 今中氏)

2000年。この年の春は全てが特別だった。
旅の良きパートナー伊藤さんと僕は大型連休を利用して火の国九州へとツーリングに出掛けた。



(第1日目)

 大阪南港からバイクと共にフェリーに乗り込み九州までの船旅も、今までにない旅のアプローチの仕方で新鮮だった。

 この旅でまたしても僕は天使と出逢うこととなる。フェリーで同室だった天使は僕達の所まで歩んできて


「はじめまして!」

と最高の笑顔で挨拶してくれた。万年惚れ性である僕が、天使に恋心を抱くことがなかったのは、彼女の推定年齢が5歳であったためである。十数年後が楽しみな天使でした。

 フェリーの中で出会った中年夫婦が九州に行くならぜひ、小林という所に寄ると良いですよ、小林の「鯉料理」は絶品で、それだけでも九州に来たかいがあると教えてくれた。


「鯉の洗いはうんぬんかんぬん、鯉の唐揚げはアン掛けで食べるとうんぬんかんぬん」

と事細かくレクチャーされ、僕達二人は満面の笑顔で話を聞いていたが実際心の中では「別に鯉なんか喰いたないっちゅーねん。 早よ話終わらせろ  おっさん!」などと小悪魔的発想を抱いていた。約30分に及ぶ中年夫婦の心優しき御講話から解放され、僕達二人は風呂へと出掛けることが出来た。

 湯船に浸かりながら伊藤さんが3オクターブぐらいの声で


「実際のところ鯉なんか喰いたないよな!」

と聞いてきた。

「なんや! 伊藤さんごっつう興味がありそうな感じで話してたさかい絶対行きたいんやと思ってたわ!ほんま外面だけはええな!」

 などとやりとりをしていたら、突然伊藤さんの声がマイナス2オクターブぐらいに下がった。

「伊藤さんどうしたん?」

と僕が声をかけると、彼は鏡の前で頭を洗っているおっさんを指して、

鯉のおっさんや。」

と言った。今までの会話を聞かれていたんじゃないかとドキドキしながら、僕達二人は5オクターブ程の声で

「いやぁ〜“小林の鯉”楽しみやなぁ〜」
「唐揚げのアン掛けなんか、骨まで食べれるって言ってはったなぁ〜!」


などと頑張ってみたのですが、トホホ…

 深夜12時 部屋に天使の泣き声がこだまする。


「エ〜ン! ママァ〜! ねむいよ〜!」


(第2日目)

 午前8時、定刻通りフェリーが宮崎港に入港した。

「みやざきにとうちゃくしましたっ!!」

船内に幼い天使の声が響きわたる。

 九州の大地は僕達を最高の青空で迎えてくれた。この時の気分をコギャル用語で表すと


「ゲロマジ九州チョ〜最高!!」?

 とりあえず僕達は30分ほど走り、朝食をとるためコンビニに寄った。この日の為に用意した折りたたみ式のチェアーをバイクから降ろし、青空の下「あなたコーヒーが入りましたよ」みたいな、他のライダーには味わえないブルジョア感を満喫した。

 僕達のバイクには快適なキャンプライフを過ごすため、いろいろな道具を持って来ていたので、他のライダー達よりもはるかに荷物が多かった。まさに


「積載率120%!!」

はたから見ればツーリングをしているのか“控えめな夜逃げ”をしてきたのか悩むところだろう。まぁそのおかげでこのような1ランク上のキャンプを楽しむことができたのですが。

 朝食を終え、予定通り鯉料理で有名な「小林」を無視して走り続けた。何千何万本もの花が咲き乱れる高原に着き、男同士でバシバシ記念写真を撮りまくった。もしも僕に彼女がいたならば、

「あなた一体誰と旅行に行ったのよ!! あなたのこんな笑顔、私は一度も見たことないわよ!!どこの女と行ったのよ!! 言いなさいよ!キィー!!」

などと嫉妬に狂いそうな程とびきりの笑顔をファインダーに向けていた。

 昼食後、いくつかのキャンプ場に予約の電話を入れるが、GW中の為どこも一杯だと断られる。なんとか一ケ所だけは「早い時間に来て頂ければひょっとするとテントを建てるスペースがなきにしもあらずみたいなぁ〜」ってな事を言われたので、とりあえずそのキャンプ場を目指すことにした。

 若干遅い時間ではあるがキャンプ場に到着した。さあ事務所へ手続きしに行こうとする僕を伊藤さんが引き止め、先にテントを建てるように命じた。普通ならば、事務所で手続きを済ませてからテントを建てるのが一般的であるが、荒くれ者の伊藤さんのやり方は全く逆で、先にテントを建ててしまうのである。

 なぜなら、先に事務所に行って「今日は満員ですので他をあたって下さい。」と言われる事もあるからである。つまり先にテントを建ててから


「もうテント建てちゃったもんね!今さら出ていけないもんね〜!」

などとちょっと頭の弱い若者を演じる事で、管理人達も渋々ながらも納得せざるをえないからである。毎回このようなアウトロー的交渉はすべて伊藤さんにおまかせしている。

 ちなみに上級者になると、管理人達のいない夜11時頃にテントを建て、朝、管理人達が見回りに来る前にテントを撤収し、立ち去る、いわゆる「テント張り逃げ大作戦」と呼ぶ方法などもあるらしい。もちろん伊藤さんは上級者である。

 夕食はキャンプ1日目ということで、とりあえず定番の焼き肉にした。飯ごうを使って炊いたご飯はうちのおかんよりも上手く炊けていたので、正直驚いた。今まで何度か飯ごうで米を炊いた経験があるが、全く焦げ付かず炊けたのは今回が初めてである。 「赤子泣いても蓋とるな。」は本当です。

 夕食後の恒例今日の反省会では「米の飯と女は白い程良い」という結論に達し、明日は年頃の天使に出逢えることを願いつつ眠りに入るのだった。

 深夜12時 隣のテントの幼い堕天使が泣き叫ぶ。


「ヴェ〜ン! マァヴァ〜! △○♀☆▽♂*※?!」


(第3日目)

 「高原の朝はコーヒーの香りで目覚める。」っていうのが僕の理想であったが、残念ながら現実は「高原の朝はコーヒーの水汲を命じられる。」で始まった。

 今日は今回のツーリングのハイライトである阿蘇を走ることができる。九州の阿蘇といえばバイク乗りにとっては修学旅行の夜ぐらいワクワクするところである。

 日本の名水百選に数えられる「白川水源」で水を飲むがあまりたいしたことはなかった。たぶんここは名水百選の95番目ぐらいだろう。

 僕はこの百選という言葉はかなりいい加減であると思う。「三大祭り」とか「五大湖」とか「七代将軍」などと言われると、へぇ〜すごいんだ。と思うかもしれないが、「日本の滝百選」とか「露天風呂百選」などと言われても、百選に選ばれていない所の方が少ないような気がするのは僕だけなんだろうか?
 
 だったら、ウチのおかんは「京都で声がでかい人百選」に選ばれるだろうし、おとんは「日本でノートのことを帳面と呼ぶ人百選」に選ばれると思うのだが、それってすごいの?(書いている内にわけがわからんようになった。)


 阿蘇のミルクロードは別世界だった。まるでアルプスに来たような錯覚に陥る。僕達は例のごとく折りたたみ式の椅子を降ろし、高原をハシャギ回った。たまに昔に見たアニメのワンシーンなんかやっちゃったりもした。

「クララが立った!! おんじぃ〜!!」

 元来伊藤さんは「珍しいものを見たら立ち止まらずにはいられない症候群」を持病としている為、彼に先頭を走らせると、なかなか目的地にたどり着かない。その為、基本的には僕が前を走る事にしているが、

「なぁ!なぁ!見た?今の看板! ○○○やって!どんなんやろ? えっ?止まらへんの? ちょっ!ちょっ!待って〜な!」

どと常にマイクに向かって叫んでいる。ちなみに僕は「走りに集中したい症候群」気味である為、彼の訴えを無視することが多い。

 キャンプ場へは夜8時の到着となった。昨日のご飯の炊け具合に気を良くした僕達は今日は難易度の高い炊き込みご飯に挑戦することにした。炊き込みの具が多いため、水加減がかなり曖昧であったが、とりあえず火にかけてみた。

 しかしいつまでたっても蒸気が吹き出さない。以前、僕は伊藤さんに裏側が真っ黒に焦げたピザを食べさせられた経験があるため、必要以上に神経質になっていた。(前回は七輪でピザを焼いたんだけどね。)


「なぁ伊藤さん。なかなか吹き出さんのやけど、蓋取って確かめたらあかん?」

「アカン!! 赤子泣いても蓋取るな!」

「赤子は泣いてへんけど、向こうの方でガキが泣いてるで。」

「アカン!! ガキが泣いても蓋取るな!」


しかし、さすがの伊藤さんも心配になったらしく僕に中を確かめるように言った。

「伊藤料理長!! セーフです!! 後2分遅かったら、“炊き込み風 焦げご飯”でした!!」


 南国九州といえどもさすがに5月初旬の夜は冷え込んだ。僕達は焚き火で暖をとることにした。この旅の為に伊藤さんが用意した九州のガイドブックがようやく役に立った。ガイドブック本来の使い方とは異なるが、僕達を体の芯から暖めてくれた。炎となって…

 とうとう明日はツーリング最終日である。事故って病院送りになり、「楽しかったツーリング」が「悲しかった通院苦」にならないよう安全運転を心がけることを誓った。
                             
                                  おわり



あとがき

 「ツーリングレポート 九州編」いかがでしたでしょうか。実際はもう1日あったわけですけど、もうひと月以上も前のことですので、記憶も薄れてしまっているため、物語を終わらすことにしました。正直言って今回の最終話の出来もいまいちでしたので。
 物語の内容から読みとれるように伊藤さんはとてもワガママな人で、僕がかなり苦労しているのがお分かり頂いたでしょうか。それが皆様に伝わっていればこの文章を書いたかいがあります。それでは次回作をご期待下さい。

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